みやぎ東日本大震災津波伝承館
竣工年 | 2020 |
所在地 | 宮城県石巻市 |
地図 | Map |
外部サイト | みやぎ東日本大震災津波伝承館 Webサイト |
本施設は石巻南浜津波復興祈念公園内の国営追悼・祈念施設の中核施設である。先行する公園計画において、本施設と隣接する追悼の広場や築山の計画が既に決定されていた。本計画では公園計画のコンセプトを理解することで、ランドスケープと一体化した風景をつくり、公園の空間構成と連続した、震災伝承と追悼・鎮魂のための空間を設えた。
石巻南浜津波復興祈念公園の計画では、南浜の原風景である「浜」と震災前の暮らしの記憶を示す「街」に追悼・祈念のための場を重ねるという空間構成や、震災復興の象徴と位置付けられた地域ボランティアによる苗からの「杜」づくり、そして公園の中心に式典等を行う場として、「追悼の広場・祈りの場・中核施設」の建設が先行して決定していた。本計画では、先行するランドスケープのデザインコンセプトを丁寧に読み込み、景観、建築、そしてその内部空間へと反映させることで、公園、本施設、そして震災展示のコンセプトの一貫性を図り、「国が運営する追悼・祈念施設の中核」として、国内だけでなく国際的にも「被災の実情」と「復興への強い意志」を伝える象徴的役割を担う施設を計画した。
公園の祈りの場に対し、本施設を「第2の祈りの場」、日和山を「第3の祈りの場」と位置付け、これらを1つの軸線上に配し、建物高さを抑えることで、各視点場からの日和山への視線の繋がりを確保、ランドスケープと一体の景観を形成した。建築と展示との連携に配慮し、津波の高さを示す庇や、震災時刻の影の床ラインにより、建物本体が震災展示の一部となるデザインとした。また、周辺の震災遺構や風景を「伝承展示」ととらえ、360°ガラス張りの外装、ランダムに配置された細い柱、自立した壁により、内~外への視線の妨げが生じない空間構成とした。展示スペースは、荒天時の式典利用を想定し、ランダムな柱が周辺の松林と繋がる樹下の祈りの場をイメージした象徴的な空間とした。計画地に残る震災前の街路跡を施設内の通路として計画し、街の記憶を室内に取り込んだ。通路の先には、石巻復興のシンボルである日本製紙工場の煙突をとらえることができる。
本計画では、樹木のように林立した柱と全方位に均等に開けた透明な正円の空間により、公園の復興のシンボルである「概成する杜」や周辺の震災遺構と視覚的なつながることで、公園計画で決定していた震災の記憶の伝承のためのデザインを建築に反映し、展示計画へとつなげている。これは国、県、市により別々に発注された公園、建築、展示計画を、1つの公園整備の事業として一貫性を確保する試みといえる。その他、ランダムに配された柱は不整形な三角グリッドを組んだラーメン構造により構造的な規則性を確保している点や、津波高さと同じ建物高さ、震災時刻の建物の影のラインなど、建築本体による震災の記憶の伝承のための物語を持っている点も本計画の特徴である。
ランドスケープの完成途上である「概成」という思想に基づいて建築の在り方を模索した。現在の伝承館竣工時点では石巻南浜津波復興祈念公園としては未完の状態である。30年後、50年後、周辺ランドスケープの木々が杜となった時、ようやく祈念公園として完成されることを考えた。建物周囲が杜となった時、全方位に開かれた建築は杜に溶け込み、ランダムに配置された柱は外部の木々と視覚的に調和する。祈りの場は杜の中にボイドとして現れ、祈りの軸とともに一層強調される。時間経過とともに風化する「経年劣化」と相対し、日々成長し続ける「経年優化」「経年美化」を伴う計画は津波の記憶を継承していく復興祈念公園の一つの在り方と考える。