神戸市立自然の家『そうぞうのすみか』
竣工年 | 2024 |
場所 | 兵庫県神戸市 [Map] |
事業主 | 神戸市 |
運営・維持管理 (指定管理者) | 六甲アウトドア・エデュテインメント共同企業体 アドバンス(代表企業)+北川・上田総合計画 |
建築設計/CD | 栗生明+北川・上田総合計画 |
協働 | 構造|レン構造設計事務所 電気設備|HEZERAF 機械設備|建築設計 mellhips ライティング・デザイン|Phenomenon Lighting Design Office アート・ディレクション/Webデザイン|CYALAXY サウンド&エクスペリエンス プランナー|Oyster inc. アート事業アドバイザー|北川太郎 |
施工 | 溝口建設 |
Webサイト | 神戸市立自然の家『そうぞうのすみか』公式Webサイト |
神戸市の六甲山系・摩耶山上に位置する「神戸市立自然の家」は、1973年(昭和48年)の開設以来、市内学校・青少年団体の林間学校や課外活動など、野外体験施設として利用されてきた。しかし、施設の老朽化や、アウトドア体験の需要の高まりを受け、市は2024 年度より一般にも広く利用されるよう運営方針を転換し、施設機能の拡充を図った。
栗生明+北川・上田総合計画は、全国でアウトドア事業を手がけるクロスプロジェクトグループ傘下のアドバンス(株)と共同企業体を結成し、飲食店を併設する湖畔の休憩施設の新築や、新たなキャンプ場の設置、2000㎡超の宿泊施設の改修や、アーティストとの協働による一棟貸し宿泊施設の高付加価値化など、施設全体の大規模リニューアルの企画・設計・施工を行った上で、今後10年間にわたって指定管理業務にも携わる。
私たちは「そうぞうのすみか」を新しい施設の運営コンセプトと定め、これまでと変わらない自然体験を提供しながら、すべての人が自ら考え、手を動かし、行動することを促す、主体的な想像・創造の場づくりに着手した。
新築の休憩施設の計画に際して施設スタッフに案内されたのは、森に囲まれた湖を望む敷地であった。山の湧水がこの「穂高湖」に集まり、「生田川」に合流して、新神戸駅に程近い「布引の滝」を落ち、神戸市街を縦断して神戸港に注ぐ。湖の向こうには登山の名所「シェール槍」の頂がそびえ、ほとりの桟橋に立つと無数の野鳥の声に包まれる。神戸の市街地からわずか40分ほどの環境での思いがけない出会いであった。私たちは、この風景に呼応した、湖を介してシェール槍と対峙する力強さを持つシンボリックな建築を構想した。
六甲山系全域が国立公園に指定されていることから、自然公園法に則って屋根は切妻型とした。シェール槍と正対するように建築の配置を決定し、湖に面する北側は天井高8mの大きな開口部を設けて風景を切り取った。反対に、登山道に向き合う南側はできる限り低く抑えて建築と周辺環境のスケールを調停している。正面の屋根勾配は60度とし、南北の高さの変化に伴って切妻屋根の勾配が変化していくため、ねじれた屋根形状になっている。正三角形の形態とシンメトリーな平面構成による教会のような佇まいの建築が、場所の持つ崇高さに寄り添い、より印象的な情景が現れることを期待している。
内装は兵庫県産材を活用した天井材や、六甲山の間伐材のカウンター・テーブル、外装には天然石を吹き付けた屋根材や土の風合いが感じられるタイルなど、自然素材を多く用いることで、森の中に凛と立ちながらも自然豊かな環境と調和する建築を目指した。
実は「穂高湖」は、砂防えん堤に水を溜めることで現れた人工湖である。昭和48年に当時の建設省が貯水を開始し、昭和50年に神戸市が周囲に遊歩道を整備したことから多くの登山者に親しまれてきた。さらに「シェール槍」は明治に遡ってドイツ人のシェール氏が愛好したことから命名されたと伝わっている。明治に見出されたシェール槍、昭和に形作られた湖畔の風景が、本事業によって世界中の人に再発見される未来を思い浮かべている。
(以下、特記なき写真は撮影:藤井浩司)