コアやまくに

竣工年1996
所在地大分県中津市山国町
受賞歴第7回公共建築賞特別賞受賞
第5回アルカシア建築賞公共施設部門佳作
外部サイトコアやまくにホームページ

一部の大都市を除いて、日本中が過疎に苦しんでいる。住民の流失は、単に税収の落ち込みによる財政圧迫だけでなく、人びとの地域に対する帰属意識や愛着を風化させる。いわば目に見えない〈心の過疎〉こそ、解決を迫られている重大な問題である。多くの過疎の町は生活の実相が色あせ、生気を失いつつある。

大分県ではこうした流れに歯止めをかけるべく〈一村一品〉運動を展開し、成果を上げている。この試みが産業振興による過疎対策であるとすれば、シンボル的な環境空間づくりを通して、住民の心の御焦点合わせを図ろうと試みているアメニティタウン構想は、過疎対策の環境編といえよう。「コアやまくに」はその第1号のモデルとして実現した。

心から住み続けたい、外部からも移り住みたいと感じさせる地域とするためにどのような空間が必要とされているのか、フィールドワークと議論に2年間が費やされた。現地の観光資源などの実踏調査、既存資料分析、さらにはグループインタニューという手法により、地域背景と住民意識の掘り起こしが図られた。
こうした作業の中から「集中とネットワーク」というキーワードが生まれた。ハードウエアもソフトウエアも分散孤立させるのではなく、1カ所に集中させる。集中できないものは役割分担を明確にして、ネットワークで強く結びつける。必要な施設を集中させ、情報を集中させ、人を集中させる。こうした考えはとりもなおさず都市的機能と環境をつくり出すことにほかならない。グループインタビューでも明らかにされたことだが、人びとの意識はすでにどこに住んでいようとも都市的である。

建築自体がひとつの都市になり、開かれた公共の場として機能することが目指された。豊かな自然の中での都市的利便性、選択性の高さはそのまま生活の快適性につながっていく。ここでは図書館、イベントホール、地域教育施設、歴史民俗資料館、ギャラリーに加え、町役場の建て替え、さらには冬季のアイススケート場になる池などの集中複合があたかもひとつの都市を形づくるように計画された。ここで重要なのは、それぞれの機能空間そのものよりも、複数の機能空間の集合によって生み出される残余、透明なすき間の空間である。このすき間に町内をめぐる山辺の道(町道)や背後の山への登山道が貫通し、直接この施設に用のない住民もこの空間に参加する。

ここは住民の居間であり、子供たちの遊び場であり、外来者のための客間でもある。実際の濃密な人間関係がなくとも、ここに立ち寄る人びとがお互いの姿をかいま見ることによって生じるサイレントコミュニケーションが精神と一体になった都市的空間を生み出す。