奈良国立博物館 なら仏像館

竣工年2016
所在地奈良県奈良市
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外部サイト奈良国立博物館

「帝国奈良博物館」は、奈良で最初の本格的欧風建築として、1894年に完成した。宮内省内匠寮技師・片山東熊の設計であり、フレンチルネサンス様式をとり、玄関まわりの装飾は意匠的にも非常に優れている。1969年、「旧帝国奈良博物館本館」として国の重要文化財に指定された。その後、1972・1997年に吉村順三の設計により新館、地下回廊につながる本館の東側エントランスが増設されている。2010年、この本館は仏像を専門に展示する「なら仏像館」に衣更えされた。
この貴重な建築遺産を次世代に伝えると同時に、今後も鑑賞者および展示物である仏像にとって良好な室内環境を維持し、活用するため、121年の歴史の中で、初めて本格的な展示空間改修が計画された。

重要文化財のため、外装、躯体はもちろん、内壁、天井に触れることは許されない。そこで既存壁の内側に新しく内壁を立て、ルーバー状の梁で支えることで、入れ子状で、無柱の内部空間を新しく設えている。装飾が施された既存天井を明るく顕在化させる一方、可変性の高いスポット照明により、展示替えに即応して、仏像にとって、最も効果的な照明演出ができるものとしている。
今回の改修では、中央の大きな3室はガラスケースを全て撤去し、免震台に載せられた仏像群を、細部まで鑑賞しやすいかたちで点在させた。また、高齢者にも配慮した明るい展示空間が求められたため、新設の壁、梁は全て伝統色である淡い桜色(桜鼠)の左官仕上げで塗り上げた。奈良吉野の満開の桜霞のなかで仏像群と出会うイメージである。
東側エントランス部分は逆に、自然光の入射を押さえた暗めの参道として設え、道行の先にやわらかな光につつまれた「仏の世界」が広がることを意図している。飛鳥時代から鎌倉時代に至る優れた仏像を、明治、昭和、平成と引き継がれた「器」で鑑賞するといった「時代の継承」を強く意識している。