聖林寺 観音堂
奈良県桜井市、聖林寺の国宝・十一面観音菩薩立像(以下、観音像)を安置する観音堂の改修・増築計画である。
既存の観音堂は、昭和34年に建立された日本初のRC造による国宝の収蔵庫で、耐震補強をはじめ末永く観音像を保護する環境整備が求められた。
観音像はかつて大神神社の神宮寺である大御輪寺の本尊として祀られ、慶応4年に聖林寺に移された。創建当初(奈良時代後期)、観音像は前堂と後堂が並び立つ「双堂形式」の仏堂におり、参拝者は前堂から後堂の観音像を仰いだとされる。
観音堂は文化財保存のための「収蔵庫」であり、信仰の対象としての観音像と向き合う「祈りの空間」である。私たちは当初の観音像と参拝者との関係を現代において再現することを試みた。
収蔵庫を内陣、前室を外陣と位置づけ、参拝者が前室から収蔵庫の観音像を仰ぐように計画した。観音像はやや前傾姿勢で伏し目がちな姿をしており、低い位置の前室から拝むとちょうど視線が合う。さらに、独立免震展示ケースの採用により、収蔵庫の中では360度どこからでも間近に拝観が可能となった。
文化財の収蔵環境の計画ではコンクリート打設後の枯らし期間が求められるが、観音像の長期のご不在はお寺の負担も大きいため、本計画では既存の収蔵庫を耐震改修する方針として枯らし期間を短縮した。収蔵庫を正圧、増築となる前室と風除室を負圧とする空調計画により、汚染空気の収蔵庫への流入を防いでいる。観音像は工期中に東京と奈良の展覧会を巡回し、竣工後に速やかにお寺へお戻りになった。